第97回
日時:2007年3月10日(土) 14:00-16:00
場所:盛岡市上田公民館 地階会議室

テーマ:生命を科学するシリーズ(9)

話題1:「中脳領域化の分子機構」
    荒木 功人(岩手大学工学部)

 動物の形が出来上がる過程において、大まかな領域が決まり、その領域中でさらに
細かい領域が決まるという現象が起こります。このような領域がどのように決まり、
その領域がどのように維持されるかという機構について、中脳をモデルとした分子レ
ベルでのお話をいたします。

話題2:「癌におけるゲノムの不安定化を考える」
    幅野 渉(岩手医科大学DNA解析室)

 癌は遺伝子の変異を蓄積しながら発生し進展します。一般に癌組織は均一な癌細胞
で構成されています。これは増殖に有利な変異を獲得した癌細胞が、他の癌細胞を駆
逐し、やがては癌組織全体を占有するからです。このような癌の進展過程は、ダーウィ
ンが描いた生物の進化モデルに極めて類似しており、clonal evolutionと表現されます。
さて、生物の進化と同様に、癌を進展させる原動力となるのが「ゲノムの不安定化」で
す。たとえば癌細胞が浸潤や転移をするときには、いくつものバリアーを乗り越え、新
たな環境に適応するための能力が必要になります。そこで癌細胞は「ゲノムの不安定化」
という性質を利用して、自らの遺伝情報を変化させ、環境変化に対応しているのです。
より優秀な子孫(娘細胞)を残すために、ゲノムの安定性を犠牲にすることが癌細胞に
とっては都合のよいことなのかもしれません。
 われわれはこのような癌における「ゲノムの不安定化」の役割に興味を持ち、大腸癌
などを対象に「腺管分離法」を用いた独自のアプローチにより研究を行ってきました。
たとえば癌を組織全体ではなく、単一腺管のレベルにまで分離・回収し、変異遺伝子の
プロファイリングを試みました。その結果、癌が必ずしも均一な細胞集団ではなく、ゲ
ノムの不安定化が起こりつつあるという癌の動的な姿が明らかになりました。また癌遺
伝子や癌抑制遺伝子の変異のみがselectionの推進力になるなど、生物の進化モデルが
忠実に再現されることもわかりました。一方、われわれは染色体レベルでのゲノムの不
安定化に関係する因子を網羅的に探索する新しい方法を開発し、その候補遺伝子を同定
しましたので紹介します。

キーワード:ゲノム不安定化、染色体不安定化、マイクロサテライト不安定化、
      DNAメチル化、腺管分離法