第93回



日時:2006年 3月4日(土) 14:00-16:00
場所:盛岡市上田公民館 第一集会室

テーマ:生物の進化に迫るシリーズ

話題:「脳の進化:大脳“新”皮質は新しいか?」
    山本 直之 (日本医科大学)

 大脳皮質は我々ヒトの脳で最大の領域である。大脳皮質は、原皮質(=海馬)、
古皮質(=嗅皮質)、および新皮質の3つの領域に分けられる。新皮質は哺乳類
にしか存在しないとされてきた。また、齧歯類(ネズミなど)や食虫類(モグラ
など)などの“原始的”な哺乳類では発達が悪く、霊長類とりわけヒトで著しく
発達していることから、系統発生学的(進化学的)に新しい皮質領域、すなわち
”新”皮質と名付けられた。新皮質には、間脳の視床で中継される感覚情報が入
力する感覚野、運動の指令を送り出す運動野、高次の感覚処理や運動のプログラ
ミング、長期的な計画の立案などに関わる連合野がある。
 非哺乳類には本当に新皮質はないのだろうか?例えば、鳥類の大脳(終脳)の
大部分は線条体に相当すると考えられてきた。しかしながら、視床を介して終脳
にいたる感覚路が存在することがわかり、鳥類にも新皮質に相当する場所が存在
すると考えられるようになってきた。同様に爬虫類や両生類にも新皮質に相当す
ると考えられる領域が見つかった。つまり新皮質相当領域の存在は、四足動物に
共通する性質と考えられる。
 一方、魚類の大脳は嗅覚のみを処理する場所と見なされ、“嗅脳”と呼ばれて
きた。魚類には新皮質は存在しないのであろうか?硬骨魚類に属する真骨魚類
(タイ、コイ、メダカなどもっとも普通に見かけられ、最も種類が多い魚類)の
感覚路を調べた結果、各種感覚情報はやはり間脳で中継されて終脳に至ることが
わかった。しかしながら、真骨魚類の間脳の感覚中継領域は視床ではなく糸球体
前核群と呼ばれる場所であった。真骨魚類の感覚上行路は間脳までは四足動物と
ほぼ同じである。間脳から上の経路だけ真骨魚類で独自の進化を遂げたのであろ
うか?糸球体前核群は、視床の腹外側後方に位置する。筆者らは、「糸球体前核
群は、四足動物の視床の一部(感覚中継領域)に相当するが、発生中に大きく移
動するため、一見すると視床とは思えないような場所にいたるのではないか?」
という仮説を立て、メダカの間脳の発生を研究した。その結果、糸球体前核群の
ニューロンは、哺乳類において視床のニューロンが生まれてくる場所に相当する
領域から出現し、腹外側後方に大きく移動することを示唆する結果が得られた。
真骨魚類でも視床から感覚情報を受ける領域−新皮質の感覚野に相当する領域−
が存在すると思われる。大脳“新”皮質は、脊椎動物の進化の歴史のかなり
“古い”時期に出現した可能性が高い。