第87回
日時:2005年 1月22日(土) 15:00-16:30
場所:盛岡市上田公民館 第一集会室
テーマ:岩手の自然を見つめてシリーズ(20)
話題:「北方系カレイ マツカワ って知ってますか? − 驚き!水槽色の謎 −」
山野目 健(岩手県水産技術センター 種苗開発室)
マツカウVerasper moseriは、北海道や東北地方の太平洋側を中心に生息して
いる冷水性の大型カレイで、刺身などにすると大変美味な高級魚です。青眼側の
表面が松の樹皮のようにざらざらしているのが持徴です。岩手県は平成2年度か
らマツカウの種苗生産技術開発に毒手し、平成8年度にはヒラメに次ぐ次期栽培
対象種と位置づけて、養殖の推進と種苗放流による資源回復に取り組んでいます。
演者は水産技術センター設立時の平成6年からこの技術開発に携わっており、日
本栽培漁業協会厚岸事業湯(現水産総合研究センター厚岸栽培漁業センター)お
よび北海道立栽培漁業総合センターとの積極的な交流により、平成12年度まで
にマツカウ種苗の大量生産技術を確立し、その技術により(社)岩手県栽培漁業協会
において毎年10万尾の稚魚が生産され、当センターの放流後の調査・研究に利
用されています。今では、これまで確立された種苗生産技術をもとに、北里大学
水産学部の高橋明義先生、天野勝文先生らと共同で生産種苗の質向上と効率的で
環境に優しい養殖技術を重点的に研究しています。
天然ヒラメ・カレイ類の無眼側(裏側)の皮膚は白いのが普通です。しかし、
水槽などで人工的に飼育した魚では天然魚と異なり無眼側の一部が黒く着色する
「黒化」という現象が起きます。黒化を天然魚との識別に利用する環合もありま
すが、味ばかりでなく姿・形を重要視する我が国において、黒化は魚価を低く抑
えられる要因になります。黒化は産業的に極めて重要な問題であるにもかかわら
ず、そのメカニズムの全てが解明されていないため未だに大量に生産した場合の
黒化防止技術が確立していません。現在、黒化防止に有効な方法は水槽の庭に砂
を敷いて飼育することだけですが、残餌や糞の除去、潜砂した魚の取り上げなど
飼育管理上問題が多くなります。無眼側黒化は無眼側におけるメラニンの異常合
成によるものと思われます。一般に、メラニン顆粒の合成と拡散は黒色素胞刺激
ホルモン(MSH)により促進され、メラニン凝集ホルモン(MCH)はメラニ
ン顆粒を凝集します。また、MSHは黒色環境で、MCHは白色環境で分泌が促
進されること、また、哺乳類ではMCHの食欲増進効果があることが知られてい
ますが、カレイ目魚類の無眼側黒化と成長にこれらホルモンが作用しているか否
かは不明でした。そこで、MCHを裏付けとし、無眼側黒化と成長に水槽色が及
ぽす影響について研究を始め、白色水槽飼育がマツカウの無眼側黒化防止と成長
促進に有効であることを発見しました。この研究を足がかりに、現在では水槽色
がマツカウの他の現象、すなわち、行動、摂餌(摂餌頻度や摂餌時刻)、性比(雄:
雌)に影響することも明らかにしました。手回の報告では水槽色とこれらの現象
の関連を紹介しますが、魚の体色と行動は魚が飼い主に何かを訴える手段の−つ
であるという演者の持論に共感していただけたら幸いです。最近ではホルモン投
与や遺伝子組換えなどのバイオ技術により生産した食品を消費者が安心して受け
入れることは難しい状況です。このことから、魚自身がもっている能力をより導
き出す飼育環境やその利用方法が求められます。今後、これまでの研究成果を活
用して生産される岩手県産マツカウに安全・安心を冠するフランド化を期待して
います。