日時:2003年7月5日(土) 13:00 - 16:00
場所:盛岡市上田公民館 地下会議室
テーマ:−耳慣れない言葉を考える−
話題1:「むし歯について分かってきたこと。ミュータンスレンサ球菌
の antigen I/II ってなぁに?」
田村 晴希(岩手医科大学・歯学部)
むし歯は人類の歴史とともに歩んできたといっても良いはど、我々に馴染
み深い病気といえます。むし歯になるのに必要な条件は (1)歯が生えている
こと、(2)糖質を常食していること、(3)糖質を分解して有横酸を産生する細
菌に感染していること、の3つが知られています。近年、日本人の小・中学生
のむし歯の罷患率は減少傾向にありますが、それでもむし歯羅患率ゼロを達
成できそうにないのが現状です。
細菌学の進歩により、むし歯の主たる原因菌はミュータンスレンサ球菌の
ストレプトコツカス ミュータンスであり、その病原性因子のいくつかが同
定されてきました。これらのうちのいくつかがむし歯ワクチンの候補として
研究されています。中でも antigen I/II は細菌が歯面に付着するために重
要な糖タンパク質であり、唾液中のタンパク質と結合できる性質をもってい
ます。さらに歯周病の原因菌や他の細菌と凝集できることからバイオフィル
ム形成にも関与していると考えられます。
我々はミュータンスレンサ球菌の一つであるストレプトコツカス クリセタ
スにも antigen I/II があることを遺伝子の面から調べてきました。その結
果、ストレプトコツカス ゴルドーニと同様に antigen I/II 遺伝子を2つも
つこと、そのうちの一つは挿入配列によって失活していることがわかりまし
た。さらに antigen I/II 遺伝子と類似した偽遭伝子を同定しました。
今回のテーマである「耳慣れない言葉を考える」にお答えできるか判りま
せんが、私なりにむし歯についてわかってきたことを整理して、次に少し踏
み込んで antigen I/II についてお話したいと思います。
話題2:「生体膜研究の最近の話題−ラフトってなぁに?」
平林 義雄(理研・脳科学総合研究センター)
今日は、皆様には聞き慣れない言葉、生体膜のラフトとスフインゴ脂質に
ついてお話しいたします。生体膜の研究は100年以上の歴史を持っていて、
その時代の節目節目に膜モデルが提出されてきました。他の分野でもそうで
しょうが、モデルの提出される時代には、必ず分析技術の発展がありました。
例えば、生体膜を電子顕微鏡で観察することにより、膜が二重層で構成され
ていることがわかりました。その後、膜タンパクの動きを観察することが可
能となったことにより、流動モザイクモデルが提出されました。現在では、
一分子の動きを直接リアルタイムで追えることができるようになり、新たな
膜モデルの構築が可能と成ってきた時代に来ていると言えます。さて、現在
のモデル膜が以前のそれと決定的に違うのは、二重層を構成している脂質分
子の重要性が強調されている点です。特に、脂質ラフト(筏)モデルでは、
膜脂質は均一ではなく、ミクロな脂質ドメインを構成していることです。更
に重要なことに、ミクロドメインには細胞内情報伝達に関わるプレイヤー
(具体的には、Srcファミリーのタンパクリン酸化酵素)をリクルートしたり、
ある特定の膜タンパクがドメインに集まらないよう排除する仕掛けとして機
能していることがわかってきました。
私自身は、長い間スフインゴ脂質を中心に仕事を進めてきました。スフイ
ンゴ脂質は、100年以上も前にヒトの脳組織から発見されましたが、長い間
謎の脂質として語られてきました。実際、この脂質の名前は、謎を意味する
スフィンクスから由来しています。今日の話の中心は、このスフインゴ脂質
がラフトの主要構成成分であり、細胞、特に神経細胞の生存と死を決定する
重要な働きを持っていることを示したいと思います。新しい分子生物学の手
法を導入することにより膜モデルを分子レベルで検証できる時代が来たと言
えます。今日は、その一端をお示ししたいと思います。