第78回

日時:2003年4月26日(土)14:00 - 17:00
場所:盛岡市上田公民館 第一集会室
テーマ:土といきものシリーズ(1)

話題1:「土は生きている? 土壌微生物の多様な機能について」
    立石 貴浩 (岩手大学農学部)



 陸域の表層わずか1m程度の部分に存在する土壌は、種々の粘土鉱物や腐植
(土壌有機物)などで構成され、植物の生産基盤としての機能を有している。
土壌中には様々な生物が生息しているが、その中で微生物は、有機物の分解
や物質の化学的変換といった機能をもっている。さらに、微生物はその菌体
内に窒素やリン酸などの養分を豊富に含んでおり、植物に対する養分物質の
貯蔵庫としても機能している。このような機能は、植物が生息場所に定着し
成長して行く上で非常に重要である。
 土壌中の微生物は、大きく菌類(いわゆるカビ)と細菌類に分けられる。
一般に、畑、草地、森林の土壌では、菌類が優占している。土壌中の多くの
菌類は、落ち葉などの植物遺体を分解し、基質(糖)を得ているが、一部の
菌類は植物と共生関係を築き、植物が生産した糖を基質として得ているもの
がある。このような菌類は植物の根に感染し、菌根という特殊に分化した組
織を作る。このような菌類を菌根菌という。菌根菌は、植物より糖を基質と
してもらう代わりに、菌根菌が土壌中より吸収した養分物質(窒素やリン酸)
を植物に与えている。このような基質や養分物質のやり取りを介した相利的
な関係の結果、菌根菌に感染した植物は、非感染の植物に比べて、成長が良
い事が知られている。
 ところで現在、世界的にみて土壌の劣化・荒廃が進行している。このよう
な土壌荒廃は、植物の生産性に大きな影響を及ぼし、農作物の生産性の低下
や森林生態系の衰退などといった深刻な問題を引き起こしている。いったん、
荒廃裸地化した土壌では養分を含んだ表層土壌が侵食で失われ、緑化修復す
ることはきわめて困難である。しかし近年、養分が枯渇し著しく乾燥した荒
廃土壌を対象に土壌微生物等の機能を活用した新たな土壌修復技術やこれを
応用した緑化技術の開発が検討されており、それら技術はすでに、一部の荒
廃土壌に応用されている。


話題2:「シイタケの褐変メカニズムと関連酵素の利用」
    佐藤 利次(岩手生物工学研究センター)

 シイタケは、保存中に褐変して品質が劣化する場合があるため、褐変しに
くい保存性の高いシイタケの育種が望まれている。そこで我々は、褐変しに
くい保存性の高いシイタケの育種を目的に、シイタケ子実体ひだの褐変メカ
ニズムについて解析した。また、それらの解析手段として、あるいは優良品
種母本を作出する手段として、それまで確立されていなかったシイタケの形
質転換法を確立した。さらに最近、シイタケの酵素による環境汚染物質の分
解に関して検討を行っている。これらに関してこれまで我々が得た知見につ
いて紹介する。

1)シイタケ子実体の褐変メカニズムの解明
 シイタケ子実体は保存中にひだが褐変してくる。この褐変物質はメラニン
であり、フェノール物質を基質としてチロシナーゼなどの作用により生成さ
れると考えられている。そこで、メラニン生合成の鍵酵素であるチロシナー
ゼに着目して解析を行った。その結果、チロシナーゼ活性が褐変に伴って上
昇することが明らかとなった。また、ラッカーゼに関しても、チロシナーゼ
と同様に褐変に伴って活性の上昇が認められた。これらの結果は、シイタケ
ひだの褐変がチロシナーゼやラッカーゼによって引き起こされている可能性
を示唆している。

2)シイタケ形質転換方法の開発
 きのこの育種法は、野性株からの選抜、交配、突然変異法などが主流であ
るが、遺伝子工学的な手法が確立できれば、短期間に親株の形質を損なうこ
となく、優良な形質を獲得したシイタケの新品種を得ることが可能になると
考えられる。また、上記のチロシナーゼ遺伝子発現を抑制することにより褐
変の抑制が起こるかどうかを確認するためにも、シイタケの形質転換系が必
要である。しかし、これまでシイタケでは、形質転換法は確立されていなか
った。そこで、シイタケの形質転換法の検討を行った結果、 restriction
enzyme-mediated integration(REMI)法による効率のよいシイタケ形質転
換法を確立することができた。さらに 、シイタケ形質転換用の独自の新規
ベクターも開発した。

3)シイタケラッカーゼの環境汚染物質モデル化合物に対する作用
 担子菌は、天然物質としては最も分解されにくいリグニンを分解できる微
生物であり、その分解を担っているのが、ラッカーゼ、マンガンペルオキシ
ダーゼ及びリグニンペルオキシダーゼなどであると考えられている。これら
の酵素は、ダイオキシンなどの環境汚染物質の分解の点で注目を集め、カワ
ラタケなどの担子菌が環境汚染物質を分解することが、最近報告されている。
そのほとんどは、培養時に環境汚染物質を添加して培養前後でのそれらの濃
度を比較しており、個々の酵素が分解にどの程度関与しているかははっきり
していない。そこで、我々はシイタケ菌糸培養上清と子実体ひだよりラッカ
ーゼを精製して諸性質を検討した上で、環境汚染物質のモデル化合物に対す
る作用について検討を行った。その結果、環境汚染物質を分解できる可能性
が示唆された。