第47回

日時:1997年10月18日(土)14:00 - 16:30
場所:盛岡市上田公民館視聴覚室
テーマ:細胞の生理シリーズ(8)
話題1:「軟骨細胞の分化とその制御機構」
    添田 聡 (岩手大学獣医学科家畜内科学教室)

脊椎動物の長管骨(四肢の骨など)は、胎生期に軟骨性の骨原基とし
て出現し、これがやがて骨組織に置き換わります。さらに、長管骨の
成長が止まるまでは、骨端部に骨端軟骨板という軟骨組織が存在し、
この部位の軟骨細胞が増殖・分化して骨組織に置換することによって、
長管骨の長軸方向(骨の長さ)の成長がおこります。骨端軟骨板には、
通常、休止細胞、増殖細胞、成熟細胞、肥大細胞といった各分化段階
の軟骨細胞が規則正しく分布しており、最終的な分化段階である肥大
細胞層において軟骨基質は徐々に石灰化を始め、やがて石灰化軟骨と
なります。この後、破骨細胞によって最終分化した軟骨細胞と石灰化
軟骨基質は吸収、骨芽細胞による骨基質の添加を経て骨組織へと置換
されます。
 成長期における骨端軟骨板の軟骨細胞の増殖・分化、骨組織への置
換は、全身性のホルモン、局所的な増殖因子などの種々の因子によっ
て制御されていますが、これらの因子の発現や感受性(受容体の発現)
に深く関与していると考えられるものの1つにビタミンA関連物質があ
ります。ビタミンAの代謝産物であるレチノイン酸は、転写制御因子
であり、DANからmRNAへの転写のレベルで種々の遺伝子の発現を制御し
ており、軟骨細胞に対しても主要な分化に関連したいくつかの作用を
発現することが知られています。 
 今回は、骨端軟骨板軟骨細胞の増殖・分化について述べるとともに、
近年、獣医臨床において問題となった、ビタミンA過剰摂取によって
生じる牛ハイエナ病に関して、その形態的な変化とビタミンAの軟骨
細胞に対する作用についてお話ししたいと思います。


話題2:「カルシウム代謝とビタミンD−骨粗鬆症の予防と治療−」
    石塚 誠一 (帝人生物医学総合研究所)

 脊椎動物の血液中カルシウム濃度の恒常性は、ビタミンD、副甲状
腺ホルモン(PTH)およびカルシトニン(CT)によって厳密に調
節されている。血液中カルシウム濃度変化に対応して、PTHまたは
CTの合成、分泌が調節されるが、ビタミンDはそれ自身の代謝反応
の調節によってカルシウム代謝の恒常性を維持している。生体内のカ
ルシウムは骨に蓄えられ骨格を維持しているが、骨は血液中カルシウ
ム濃度を一定に保つための緩衝体にもなっている。生命が海水中で誕
生し、生物が陸に上がった瞬間からカルシウム欠乏に陥り、カルシウ
ムを効果的に取り込む機構が進化してきた。その主役を担っているの
がビタミンDによる小腸からのカルシウム吸収促進機構である。
 生物がカルシウム過多に陥るのは、骨転移を伴う悪性腫瘍、サルコ
イドーシスやビタミンD過剰症など特殊な疾患の場合だけであるが、
カルシウム欠乏に基づく疾患は多数存在する。その最も顕著な疾患が
骨軟化症と骨粗鬆症である。骨軟化症はビタミンD欠乏に基づくクル
病や慢性腎不全患者に発症するが、この疾患は、活性型ビタミンD製
剤の開発で現在ではほぼ完全に治療することが可能である。一方骨粗
鬆症は、種々の原因で発症する脊椎圧迫骨折を伴う骨減少症である。
骨粗鬆症は老化に伴う生理現象とも思われるが、人口の老齢化に伴い
骨粗鬆症患者は今後益々増加する。骨粗鬆症患者で最も問題なのは大
腿骨頚部骨折で、寝たきりになり、痴呆症へと進展する場合である。
従って、骨粗鬆症患者に於いては、大腿骨頚部骨折を起こさないよう
に、予防および治療する事が重要である。
 本セミナーでは、骨強度に重要なカルシウム代謝を概説し、骨粗鬆
症の予防と治療に関する最近の知見を紹介したい。