緊急アピール
東北地域の特性を考えた 命に報いる 復興計画を


 自然は今回のような災害をもたらす。しかし、東北の地に人類が住み始めて以来、人は、
厳しい自然と付き合ってきた。そして、自然の恵みの中で豊かなこころを育くみ、決して
贅沢ではないが、人間らしい生活を築き上げて来た。

 津波対策は万全であり、原子力発電は安全である、はずであった。しかし、現実を見る
と、「想定」という名のいわゆる科学的根拠が揺らいでいる。明らかに、科学技術には限
界があることを証明した。「想定外」の自然現象による被害、ということらしい。
 しかし、自然科学の研究を生業としている私達にとって、これほどおかしな「言い訳」
はない。自然現象は「想定外」だからこそ研究に値する。 誰も知らなかった新しい現象
「新事実」を発見した喜びは大きい。 言ってみれば、自然は「想定外」の宝庫なのだ。

 宮古市重茂の姉吉地区に石碑がある。「此処より下に家を建てるな」。その教訓が今回
の「想定外」の津波から11世帯30人の命を守った(岩手日報、平成23年4月3日)。地域
に伝えられる先人の知恵が活きた。巨額を投じた世界に誇る現代の万里の長城とも言われ
た大防潮堤をしのいだ。そこには、「自然を受け入れる。確実に共に生きる。」という哲
学がある。

 大震災以来、早一ヶ月が過ぎた。政府は、東日本大震災の復旧・復興に向け、識者によ
る諮問会議を立ち上げることを発表した。危機感はどうやら「原発」が主たる動機付けの
ようにも見える。勿論、原発は国民にとって重要な問題である。しかし、地震や津波が起
こっても、原発が無事であればそれで良いのだろうか。
 災害の現実は、三陸沿岸を中心に千年に一度の大地震と津波が襲った。そしてある集落
では、この大震災でも命を失うことがなかった。この原点を再度確認しなければ東北に住
む人たちの未来を開く復興策は出てこない。一方、三陸沿岸の現実、3.11前の現実をどれ
だけの方が理解しているだろうか。

 東北は南北に奥羽山脈が走り、太平洋側には北上山地と阿武隈山地が位置している。こ
のうち、北上山地の三陸沿岸は海岸まで山々がせまり、「沿岸」が「内陸」から分断され
ている。この地理的要因は、内陸と沿岸の異なる文化圏を歴史的に形成した。内陸部は新
幹線が通り物流の恩恵を受けた。また、三陸より南の沿岸地域は海運との立地を活かして
いくつかの大きな工業地域となっている。これらの地域では、災害を受けた企業の再生・
復興が重要課題となる。一方、三陸では、点在する漁港を中心に水産加工の企業が活動し
ているが、中小企業が多い。必ずしも地域の若い人たちの雇用を吸収できていない。また、
人口に対する自殺者の割合が全国的にも高い地域を含んでいる。
 三陸で暮らす人々は、「豊かな自然との共生」を基にした慎ましやかな生活を実践して
きたし、これからも求め続けるに違いない。避難所で決して若くはない方が「今何が欲し
いですか」とのインタビューに「小さな船と漁具が欲しい」と答える。千年に一度の津波
を経験した直後に、である。金が欲しいからではなく自分は「漁師」だから・・。このよ
うな自然との共生を喜びとしていた方々が、静かに暮らせる環境の整備は、決して政府が
経済的効率「だけ」から発想するようなものではない。
 この地、岩手には自然との共生から生まれた優れた文化がある。世界に誇ることのでき
る文化である。三代藤原の平泉だけではない。洋野町の種市高校は全国で唯一、潜水士を
養成する学校であり、「南部もぐり」を伝承している。陸前高田を起点に活動している「気
仙大工」は、気仙杉などから釘を使わずに家を建てる高い技術を持っている。「うるしか
き」も日本全域の漆器作りを支える。いずれも小規模だが、自然を利用した優れた文化で
ある。 そこには「適正規模」という重要な意味もある。
 復興には地域が文化とともに自立できる社会を目指すべきである。重茂姉吉地区の30人
が人間性豊かに暮らせる社会を実現しよう。
 まず、若い人の意見も聞きながら、小さな生活圏の現状を分析し、最もだいじな要素を
つかみだしてから、全体的な復興計画を作りたい。そのとき、岩手県民が南部のころから
培ってきた生き方がヒントになるはずである。 この難局に直面し、私達は、自然を理解
し、先人の知恵を役立てる翻訳者としての役割を果たすべく微力を尽くしたい。
                                 2011年4月11日


もりおか生物科学の集い緊急アピール賛同者(50音順)

氏    名 (岩手県在住年数; 出身地; 所 属・専 門)

石関 清人 (盛岡市38年; 遠野市; 岩手医科大学・解剖学)

磯貝 純夫 (盛岡市25年; 神奈川県; 岩手医科大学・解剖学)

内山 三郎 (盛岡市8年; 栃木県; 岩手大学・細胞生物学)

大石 雅之 (盛岡市31年; 神奈川県; 岩手県立博物館・地質学古生物学)

大澤 得二 (盛岡市34年; 東京都; 九州栄養福祉大学 [元岩手医科大学]・解剖生理学)

佐藤 拓己 (盛岡市9年; 一関市; 岩手大学・福祉工学)

首藤 文榮 (盛岡市16年; 大分県; 岩手大学・動物生理学)

鈴木 幸一 (盛岡市40年; 宮城県; 岩手大学・昆虫バイオテクノロジー)

平 秀晴 (盛岡市22年; 福島県; 元岩手大学・生化学)

立川 英一 (盛岡市25年; 神奈川県; 東京薬科大学 [元岩手医科大学]・薬理学)

遠山 稿二郎 (盛岡市29年; 陸前高田市; 岩手医科大学・神経解剖学)

平塚 明 (盛岡市13年; 長野県; 岩手県立大学・植物生態学)

森山 俊介 (大船渡市三陸町25年; 新潟県; 北里大学・魚介類分子生物学)

吉岡 芳親 (盛岡市25年; 福岡県; 大阪大学/岩手医科大学・生物物理学)



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