ワイン新発見!! 第2回

悲運のスーパー・トスカーナ

1997 Palazzi Tenuta Di Trinoro Rosso
Di Toscana I・G・T・





 ワイナートNo.12「特集 やっぱりトスカーナは凄かった」のトップ・ページの中で、ひげずらの、髪ぼうぼうの、ちょっとイカレタ感じの中年男が、呆然とワイングラスを眺めている。彼こそがアンドレア・フランケッティである。トスカーナの田園風景には決して似合わない、デカダンな風貌。彼はニューヨーク生まれの、ローマ育ちで「街はこりごりだ!」と言って10年前にローマを脱出し、95年からトスカーナでワイン造りを始めたらしい。Palazziは彼のカンティーナのMerlot 50% Cavernet・Franc50% のI・G・T・である。そしてかの Ch.Varandrauのテュヌヴァンの賞賛を勝ち取り、彼のルートで世にでたワインと聞いている。今回のワイン新発見は、97年に産声を上げ、99年には、フランケッティの「この土地に Merlot は似合わない!」の一言で、生産中止に至った悲運のスーパー・トスカーナを取り上げてみた。
 97年物のPalazziは、ほぼ黒に近いといって過言ではないほどの濃密なヴァイオレットで、そのエッジも色を透さない。トップには印象的なヴァニリンと、将来は複雑性を増すであろうスパイシーさがある。グラスをステアーする事で、プラムのジャムとブラックチェリーのコンフィーなどの凝縮したアロマが立ち昇る。味わいはダラ・バールのCavernet Francの様に濃厚で肉感的なフルーツを持ち、堅固なタンニンが存在するが、舌触りは甘くしなやかである。フィニッシュにおいてはかすかな苦味と余韻の短さが気にかかる。総体的なイメージの退廃性は、トスカーナの強い日差しの中でまどろむ、あのフランケッティの姿に重なる。私はこのワインを『ミュジニー特集』の追加Itemとして、ブラインドで出した。ある参加者のカリフォルニアのCavernet Francに始まり、最後はイタリアのMerlotに落ち着いた。このワインは確かにカンティーナのオーナーとエノロゴが目指したと言われるCh.Cheval Blancsのニュアンスがあるが、旧大陸と言うよりは、新大陸のスタイルと考える。その点において、このワインに対するフランケッティのジレンマがあるのではないか。
 
 
Copyright 2001, Masao Yamada
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