「年をとると記憶力が落ちる」
は誤った神話?
理事長  熊坂 義裕

 和田秀樹先生は弱冠41歳、灘高、東大医学部を卒業され、精神科
医、そして論客として大活躍されている 。さらにご自身の経験を
もとにした、受験勉強法の著書もたくさんベストセラーとなってお
り、受験生から神様のように思われている学者でもある。

 その先生の最近の著書「40歳から何をどう勉強するか」(講談社
刊)は我々中高年世代にとって大変勇気づけられる本だ。その本の
中で、先生は、イギリスの脳科学者の研究を紹介し、中年になって
も短期記憶を司る脳の中の海馬と呼ばれる部分の神経細胞は増える
と教えているからである。
 その研究は、ロンドン市内を走るタクシー運転手についてMRI
(核磁気共鳴画像)を用いて調べたところ、彼らの海馬の体積は、
一般人と比べて大きい事がわかったというものだ。さらにベテラン
の運転手程海馬が大きくなっている事も明らかにした。30年で体積
で3%、神経細胞の数に換算すると20%も増加することになるとい
う。仮に20歳で運転手になったとして、30年後には50歳になるわけ
だから、この年になっても神経細胞が増え続けるというのは、正に
驚きの発見である。ロンドンに行った事のある方はお気づきだろう
が、ロンドン市内は道路が非常に複雑に入りくんでおり、最短コー
スで行くのを使命とするタクシー運転手は、日常最も記憶力を使う
職業と考えられている。現にタクシー運転手になるための試験は非
常に難しい事でも有名だ。

 私も、来年は五0歳になる。最近物忘れしやすくなったし、本も
読んでいる割にさっぱり頭に残らないと嘆く事が多くなったが、こ
れは年のせいと思い込んでいた。

 しかし和田先生によれば前述のように最近の脳科学の研究の進歩
により「歳をとると記憶力が落ちる」というのは、少なくとも中高
年までは根拠のない神話である事が、明らかになってきたというの
だ。そして絶えずものを考え、記憶する習慣をつける事が大切だと
結んでいる。
 中高年の皆さん、目からウロコの話ではありませんか。