「糖尿病ってどんな病気?」(1)
高知県佐川町立
高北国民保険病院
川田 益意 先生

---増えている糖尿病----

 宮古の皆さんこんにちは、私は土佐の高知で勤務医をしている川
田益意と申します。私と熊坂院長とは弘前大学時代からの親友で、
お互い助け合いながら卒業した仲です。私が初めて宮古を訪れたの
は二十二年前のこと。

 熊坂院長と二人で遊覧船に乗り、うみねこと戯れたこと、浄土ケ
浜で魚釣りをしたこと、海が大変きれいだったことなど、今でもは
っきりと憶えております。そんな関係で、今回この健康講座を担当
する事になりましたので、”糖尿病ってどんな病気?”というテー
マで述べたいと思います。

 近年、糖尿病の患者さんがどんどん増えております。厚生省の推
計によると、糖尿病の人は全国で約 690万人、その予備群も含めま
すと1370万人にものぼります。また、40歳以上の人ではほぼ十人に
一人が糖尿病であり糖尿病は今や国民病とも呼ばれております。
では、なぜこのように糖尿病が増えたのでしょうか?
 糖尿病のほとんどはもともと糖尿病になりやすい体質 (遺伝因
子)を持っている人に食べ過ぎ、運動不足、肥満、ストレスといっ
た環境因子が重なって発症します。

遺伝子を持っている人の割合はあまり変りませんので、近年の糖
尿病の増加はおもに環境因子の変化によるものと思われます。その
中でも、食生活の欧米化に伴い脂肪の摂取量が増加し食物繊維の摂
取量が減少したこと、生活が便利になり運動不足になっていること
その結果、相対的な摂取エネルギー過剰状態になって、肥満もしく
は過体重者が増えたこと、この三つが糖尿病を増やす大きな原因と
なっております。

 以下に糖尿病になりやすい生活環境を紹介しますので自己採点し
てみて下さい。

1、血縁者に糖尿病の人がいる‥3点 
2、二十代前半よりも体重が十パーセント以上  増えている‥2点
3、血縁者に肥満、脳卒中、心臓病の人がいる  ‥1点 
4、砂糖や脂肪分を好んで食べる‥1点
5、車を足代わりに利用している‥1点
6、アルコールをよく飲む‥1点
7、ストレスが多い‥1点


 さて皆さんは何点でしたか?合計点数が6点以上の人は近い将来
糖尿病を発症する危険が高いですから注意して下さい。


川田 益意 先生 ご略歴
昭和53年弘前大学医学部卒、同年高知医科大学医学部第2内科入局、
文部教官助手を経て現職、日本糖尿学会認定専門医、医学博士





 「糖尿病ってどんな病気?」(2)
高知県佐川町立
高北国民保険病院
川田 益意 先生

---診断の決めては血糖検査----

 私たちの血液中のブドウ糖(血糖)は、供給(血糖を上げる)と
消費(血糖を下げる)のバランスが巧みに調節されて、ほぼ一定の
範囲に保たれております。
 血糖を下げる仕組みの中心的な役割を果たしているのが膵臓か
ら分泌される《インスリン》というホルモンです。糖尿病はインス
リンが不足したり働きが不十分になったために、血糖を一定に保つ
仕組みが障害されたときに起こり、その結果、血糖が慢性的に多く
なる病気です。

 糖尿病は成因によって1型と2型の2種類の病型に大別されま
す。
 1型糖尿病は小児に多く糖尿病全体のわずか5%足らずです。一
方、2型糖尿病は主に成人に発症し糖尿病の大部分を占めます。こ
の2型糖尿病は、遺伝因子に環境因子が重なってインスリンの分泌
や働きが徐々に悪くなり、知らないうちに発症してくるのが特徴で
す。
 したがって初期には自覚症状がありませんので検査を受けて初
めて糖尿病であることが分かる場合がほとんどです。 喉が渇く、
尿が多い、疲れやすい、体重が減ったなどの典型的な症状は、糖尿
病がかなり進んでからはじめて出てきます。

 糖尿病に気付かずに高血糖の状態が長く続くと、腎臓、目、神経
など全身のさまざまな部位にいろいろな障害(合併症)を引き起こ
してきます。 それでは糖尿病を早く見つけるにはどうしたらいい
のでしょうか?。
 それには何と言っても健康診断や人間ドックなどで定期的に検査
を受けることが大切です。特に血縁者に糖尿病の人がいたり、糖尿
病になりやすい環境因子のある人はきちんと検査を受けましょう。
そして異常を指摘されたら直ちに医療機関を受診して詳しい検査を
受けてください。

  糖尿病の診断は慢性の高血糖を確認することによってなされま
す。 そのためには血糖の測定が不可欠で、血糖値が一定の基準を
越えて高ければ糖尿病と診断します。日本糖尿病学会では、糖尿病
の診断基準および糖代謝異常の判定区分を以下のように決めており
ます。

 1)糖尿病型:早期空腹時血糖値126mg/dl以上または75g糖負荷
   試験で2時間血 糖値200mg/dl 以上あるいは随時血糖値200m
   g/dl以上。
 2)正常型:空腹時血糖値110mg/dl未満、かつ糖負荷2時間血糖
   値140mg/dl未満。       
 3)境界型:糖尿病型でも正常型でもないもの、そして原則的に
   は糖尿病型が、別の日に行なった検査で2回以上確認できれ
   ば糖尿病と診断します。
その他、口渇、多飲、多尿などの糖尿病に特徴的な症状があ
   る場合やHbA1cが6.5% 以上の場合、過去に高血糖を
   示した資料がある場合、確実な糖尿病性網膜症が存在する場
   合は1回だけの血糖検査が糖尿病型であれば糖尿病と診断で
   きます。

次回は糖尿病の慢性合併症を中心に述べます。 






  高知県佐川町立高北国民保険病院
川田 益意 先生


「糖尿病ってどんな病気?」(3)
高知県佐川町立
高北国民保険病院
川田 益意 先生

---怖い慢性合併症----
 
  糖尿病は、自覚症状に乏しいため、治療がおろそかになりやす
く、そのため血糖値が高い状態が長く続くと、やがて全身の臓器に
いろいろな障害を引き起こしてきます。これを慢性合併症と言いま
す。

 慢性合併症は、本人が気づかないうちに徐々に進行して、自覚症
状が出てきた時には、症状はかなり悪化している場合がほとんどで
す。しかも、その時点から治療を始めても病状の進行を抑えること
は難しく、しばしば、日常生活に大きな支障をきたす原因になりま
す。これが糖尿病の本当の怖さなのです。

 合併症を防ぐには、血糖をきちんとコントロールするとともに、
定期的に検査を受けて、自覚症状が出る前に合併症を見つけること
が大切です。早期に見つけて治療すれば、合併症の進行を抑えるこ
とができるからです。合併症のうち、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎
症および糖尿病性神経障害の三つは、三大合併症と呼ばれ、糖尿病
に特徴的なものです。

以下、主な合併症について述べます。

  一.糖尿病性網膜症
          
     糖尿病性網膜症は網膜の毛細血管が冒される病気です。網膜
   症が怖いのは、出血のくり返しなどで、失明を含めた重度の
   視覚障害を引き起こすからです。現在、失明原因の第一位は
   この糖尿病性網膜症です。網膜症は、早期のうちですと、血
   糖のコントロールと光凝 固法で進行を抑えることができま
   す。

  二.糖尿病性腎症
         
     糖尿病で腎臓の血管が障害されると、 その働きが徐々に低
   下し、最後には尿 毒症という状態になります。これを糖尿
   病性腎症と言います。詳しくは次回に述べます。

  三.糖尿病性神経障害
  
     糖尿病で神経が障害された状態で、三大合併症のうちで最も
   多く、また比較的早期から出てきます。末梢神経の障害では
   手足のしびれや痛み、さらには知覚の低下による感覚の麻 
   痺などが  みられます。自律神経の障害では、立ちくらみ、
   発汗異常、便秘、下痢、排尿異常などがみられます。

  四.狭心症、心筋梗塞
      
     糖尿病があると全身の動脈硬化が促進されます。狭心症は、
   動脈硬化のために心臓を栄養する冠動脈の血流が悪くなり、
   胸痛などが起こる病気です。心筋梗塞は、冠動脈が完全に閉
   塞した状態で治療が遅れると生命にもかかわります。

  五.脳梗塞
        
     脳梗塞には脳の動脈に血栓ができて血 管が詰まる脳血栓症
   と、心臓などで出来た血栓が流れてきて、脳の動脈に詰まる
   脳塞栓症があります。糖尿病で多いのは脳血栓症で、ろれつ
   が回らなくなったり、半身麻痺などを起こします
 




  高知県佐川町立高北国民保険病院
川田 益意 先生


「糖尿病ってどんな病気?」(4)
高知県佐川町立
高北国民保険病院
川田 益意 先生

---糖尿病性腎症について----

 糖尿病性腎症は、自覚症状がないまま徐々に進行して、末期には
尿毒症になり、生命に直接かかわってくる怖ろしい合併症です。
そうなると透析療法が必要となりますが、最近の統計では、毎年、
約一万人の患者さんが透析療法を始めております。

 糖尿病になっても、腎症はすぐには起こってきません。血糖値が
高いままで10年を過ぎてくると、普通の尿検査では検出されない
ほどの微量のたんぱく質が尿中に出てくるようになります。
これを「微量アルブミン尿」といい、この時期を「早期腎症」と呼
びます。

 早期腎症の時期がしばらく続いた後、やがて本格的なたんぱく尿
が出るようになります。
たんぱく尿が大量に出ると、からだ全体がむくみ、この頃から高血
圧や腎機能低下も現れてきます。さらに進行すると腎機能は著しく
低下し、体内にいろいろな老廃物がたまり、貧血も起こり、「体が
だるい、疲れやすい」などの自覚症状が現れてきます。

 ここまで進むと、やがて腎臓の機能がほとんどなくなり、体内に
蓄積した老廃物のために、意識障害や呼吸困難などのみられる尿毒
症といわれる状態になり、血液をきれいにする透析療法が必要とな
ります。

 腎症の対策は、早期発見、早期治療に尽き ます。
そのためには、微量アルブミン尿を定期的に測定することが重要
で、これが陽性なら早期腎症と診断されます。早期腎症の時期です
と、血糖の管理をきちんと行うことで腎臓の病変が元に戻ることが
期待できます。しかし、腎症がある程度以上にまで進むと、血糖値
をいくら正常にしてもその進行を止めることができなくなります。

 それでも血圧の管理とたんぱく質の摂取量を抑える「低たんぱく
食」で腎臓の負担を軽くすることで、腎症の進行を遅らせることが
できます。しかし、そのような治療を行っても、腎機能の回復は望
めませんので、いずれは末期腎不全に至り透析療法を行うことにな
ります。現在の透析療法は技術や薬剤の進歩によって、治療成績も
かなり向上しておりますので、万一、それが必要な状態になっても
積極的に取り入れる姿勢を持ってほしいと思います。

 糖尿病の人が全て腎症になるわけではありませんが、常にその危
険性があることを承知しておく必要があります。そして、血糖をき
ちんとコントロールして腎症を予防するとともに、腎症は早期に治
療を始めれば、進行を抑えることができますので、定期的に微量ア
ルブミン尿検査を受けて、早期発見につとめることが大切です。





「糖尿病ってどんな病気?」(5)
高知県佐川町立
高北国民保険病院
川田 益意 先生

---糖尿病の治療----

今回は、糖尿病の治療について述べます。
糖尿病の治療目的は、慢性合併症を防ぎ、健康な人と変わらない生
活を送ることにあります。ですから、糖尿病と診断されたら、自覚
症状がなくても、すぐに治療を始めます。 
糖尿病の治療は、「食事療法」と「運動療法」が基本です。   
          
 まず食事療法ですが、最も重要なことは、「適切なエネルギー量
の食事をとる」ことです。適切なエネルギー量は、各人で異なりま
すので、通常は標準体重と活動量から割り出します。標準体重は、
最近では体格指数(MBI) を基にした計算法が用いられており、身
長(メートル)ラ身長ラ22の数式で計算されます。こうして求め
た標準体重に、活動量に応じたエネルギー量を掛けて、一日の総エ
ネルギー量とします。

 もう一つ重要なことは、「栄養の偏りをなくしてバランスよく食べる」こ
とです。決められた総エネルギー量の中で、自分の好みに合わせて
食品を交換して食べるには、日本糖尿病協会の「食品交換表」を利
用するとよいでしょう。さらに一日の総エネルギー量を三回の食事に
ほぼ均等に配分して、決まった時 間に食事をとることも大切です。
食事時間のずれや間食は、血糖のコントロールを乱す原因になりま
す。
             
 次に運動療法ですが、運動をすると血液中のブドウ糖が筋肉で消
費され、その結果、血糖値が低下します。また運動を続けると、悪
くなっていたインスリンの働きが回復して、体内でのブドウ糖の利
用が高まることが分かっております。運動の種類は、速歩、水泳、
ジョギングなど有酸素運動と呼ばれるものが効果的です。具体的に
は、主治医に運動療法の処方せんを作ってもらうとよいでしょう。

糖尿病は、食事療法と運動療法だけで、かなりの人が血糖値を正常
化することができます。

 しかし、それでも血糖値が高い場合には薬物療法が必要になりま
す。薬物療法には、内服薬による治療とインスリン注射の2種類が
ありますが、これについては主治医に処方してもらうことになりま
す。

 最後に、糖尿病は自分自身できちんとコントロールすることが最
も大切です。その意味では、本当の主治医はあなた自身です。糖尿
病と上手に付き合い、いつまでも元気で長生きができるようにがん
ばってください。