介護保険制度と市町村の役割
理事長
熊坂 義裕

 平成12年4月1日から、介護保険制度が実施されることになりまし
た。これはむしろ遅すぎたと言えるでしょう。なぜなら、最近でも
日本各地で、介護の負担が原因と見られる殺人や心中が後をたたな
いからです。

 日本独特の介護地獄を生み出した元凶は過去の政策に有ります。
高齢化社会が現実となり始めた1979年、経済審議会が提言した「日
本型福祉」は、家族の献身的な無償労働を前提としたものでした。
これが「介護は家族の義務」という誤った固定観念を、よりいっそ
う強くさせたのです。

 1980年代、高齢化が急速に進む中、福祉の予算は厳しく抑制さ
れ、一部の福祉政策に積極的な自治体を除いて、十分な福祉サービ
スを整備することができませんでした。

介護が必要になると病院に入院させる。しかし長期になると退院
させられ、自宅に戻る。こうして最も介護が必要な方が在宅という
厳しい状況が生まれていったのです。介護保険は、こうした日本独
特の悲劇の構造そのものを変えようとするものです。 

この制度の運営主体は市町村です。市町村はこれまで、お金が無
いからサービスができないと、お茶を濁してきました。
これからは、そのお金が市町村に来るようになります。例えば、宮
古市は65歳以上の方が約1万1千人おりますので、仮に保険料が2
500円になりますとその約6倍のお金が入りますから、年間約2
0億円が高齢者介護費用の財源として確保されることになります。
この制度を心配して、 「保険有って介護なし」と言う人がいます
が、むしろ「市町村に財源有ってサービスなし」になることのほう
が心配です。

 介護保険は市町村の力が試される制度です。
そして同時に、市民の行政に対する厳しい監視の目と、更に高い関
心が求められる制度でもあるのです。