『ヒトゲノム全容解読の
      意味するもの』
熊坂内科医院 
理事長  熊坂義裕

 人間の全遺伝情報、すなわちヒトゲノムの解読がほぼ終了したと
日米欧の国際共同研究チームが六月に発表した。人間から人間が生
まれるのは当たり前だが、これはヒトゲノムによって設計図が決め
られているからだ。

 人間の体は、六十兆個の細胞からできており、その一つ一つの細
胞に二十二対の染色体と二種類の性染色体(男はXY、女はXX)
が入っている。そして、染色体の中に二重ラセン状のDNAがたた
みこまれている。たくさんの文字が書かれた巻物にたとえると、巻
物を入れる箱が染色体、巻物がDNA、巻物の中に書かれた文字が
ゲノムというと理解しやすいだろう。巻物には四つの文字すなわち
アデニン、チミン、グアニン、シトシンという塩基が並んでいてそ
の数は三十億個におよぶ。三十億個の文字というのは、新聞朝刊で
約二十五年分に相当する数だそうだ。

 ではゲノムの解読で何ができるのか。まず第一に病気の原因とな
る遺伝子や病気になりやすい遺伝子が特定されることにより新しい
治療法が開発され、病気が治ったり、なりにくくすることができる
ようになる。例えば、癌や糖尿病などの遺伝が濃厚に関係する病気
では、新しい薬が開発され、治療が期待できるようになる。予防医
学も飛躍的に進歩するだろう。当然、ゲノムビジネスも生まれる。

しかし、一方で様々な深刻な問題も生じる。たとえば生命保険を考
えればすぐにわかると思うが、何歳の頃に何の病気になり、どの位
の確率で死亡するか予測できてしまう。又、個人情報がもれたら結
婚や就職はいうにおよばず、様々な面で大変な事が起きることは誰
でも理解できるだろう。さらにもっと深刻な問題は研究ががすすむ
と進化の過程もわかってしまうので、人間を改造したり人間以上の
生物をつくる事も可能になる。ちなみにチンパンジーと人間はゲノ
ムでわずか1.6%しか違わないのだ。ヒトゲノムの解読は、医療
や学問を越えた重い選択を人類につきつけている。