多田克彦の農場便り

標高４５０メートル。私の農場は深い山に囲まれたところにあります。朝の５時、乳牛の乳搾りで仕事がはじまり、夕方西に沈む陽の光を浴びてホウレンソウ畑が眠りにつく。四季の変化を五感に受けて、農業をやっています。

春の雪どけは３月２０日頃、ふきのとうの芽吹きとともにやってきます。すでに２月からハウス内ではレタス、キャベツ、トマト、ナスなど野菜の苗は緑に輝き、コメの種子は冷たい水の中で１ヶ月程浸漬されています。４月いっせいに畑に出ます。サクラの咲くのは５月１日。エダマメ、トウモロコシの種をまき、ピーマンの苗の植えつけと農場は忙しさに拍車がかかります。６月のレタス、キャベツの収穫のはじまりは、乳牛の乾草の刈り取り期になります。７月、８月の夏の暑さはトマトの赤く熟した色、ナスの濃紫色をつくり出し、汗をふきながら働く毎日。８月のお盆を過ぎると遠野は秋の風吹きはじめます。黄金色のコメの穂は不耕起１本植えした苗が自然のもっている野生に目ざめ、４０本も茎を発生した元気稲。９月の刈り取り、１０月の秋の仕度はつけものにする白菜、ダイコンの収穫と鍋物の春菊、ネギの収穫です。牛舎は次から次と乳牛のお産のラッシュ。子牛が産まれます。１１月朝と夕はめっきり冷えてきて雪が降りてきます。冬は土への投資の時期。私は夏に刈り取っておいた草をきざんで堆肥づくり。山に入り落葉集めに全力をつくします。１２月の山々は静寂の中に、次の生命の訪れを感じる神秘の空気にあふれるところ。山の神に感謝し、農場の一年が自分の生命と呼応しながら楽しいことも、苦しいことも、悲しいことも“躍動感”となっています。

岩手の遠野、農業をする心とは「いつも自然のリズムを聞きながら科学する心」であり、来ていただく人に「可能性を引き出す農業」を感じて、生命の営みのすごさに「ていねいに生きる」ことをメッセージとして受け取ってもらえるよう、喜んで仕事に参加してもらえる農場であるたいと考えています。