親方さんですか、職人さんですか?

修行中、窯場の老職人に
昔の職人の「仁義」を教わったことがある。
その方は若い時、瓦職人だった頃もあり、
この話は主として瓦業界の話であるが、
戦前の職人世界ではどこでも、だいたい同じ様子だったらしい。

昔は流れ職人が、たくさんいたものである。

知らない土地へ来た流れ職人は、
窯場を見つけたなら、そこで働いている人に、まず

「親方さんですか、職人さんですか?」と聞く。
その人がたとえ親方でなくても、
「親方さんですか?」と、聞かれて悪い思いをするはずがない。
よしんば職人ですらなく、ただの「見習い」であったとしても
「職人さんですか?」と、聞かれて悪い思いをするはずがない。
つまり、もっとも無難な挨拶というわけだ。

その人が親方でなかったら親方を紹介してもらって、
或いはもしその人が親方だったなら、そこですぐに、
「仁義」を切るのである。
仁義とは、自己紹介である。
「手前、生国とはっしますところ、、、、」
寅さんの世界ですな。

そして仁義において、何より大切なのは
「自分が何をどの程度できるのか」それを自己紹介する事なのだ。
つまり、いきなりの面接試験、履歴書の披露なんですね。

いきなりの面接試験、それでいいのだ。
日本の職人世界では、流れ職人がやって来た場合
すぐに追い返すような事は、けっして無かった。
その人が出来そうな仕事が少しでもあれば、
必ず仕事をさせたものだった。
もし、不景気で、やってもらう仕事が全然なかった場合には、
それでも一晩は必ず泊めてやり、ささやかな「ごちそう」までしたそうだ。
そして翌日には、近くの窯場を紹介してあげたらしい。
近くに窯場が無い場合は、そこまでの汽車賃と
ちょっとした小遣いまで与えてやったそうである。

これが「一宿一飯の恩義」なのである。
「一宿一飯の恩義」を受けた職人は一生それを忘れる事は無かった。
もしその窯場が人手不足で困っているような噂でも聞いたなら、
それこそ「押っ取り刀」で駆けつけるものだった。

このようにして業界全体として、職人の生活を保障したのだ。
だから、若い人も安心して職人の世界に飛び込むことができたのである。

考えてみれば、ちょっと前まで、日本では
大きな会社でも中小企業でも、これとは少し違う形かも知れないが
いずれにせよ、職業人を「大切に育てて来た」のではなかったか?、、、
国レベルでも、社会保障を大切にしていた筈だったのだが、、、

しかし、最近の日本の社会は、職人を育てるどころか
全くの「労働者使い捨て」の時代に突入してしまったようですね。

これでは世の中、ダメになりますな。

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